(かなり遅ればせながらですが…)6月に韓国を訪れてきました。9年前、カナダに短期語学留学に行った際に知り合い、私に「草の根交流」の力を教えてくれた大事な韓国人の友人に再会するためです。
9年前カナダで出会い、5年前に日本で再会し、今回韓国で再会した友人と。
「せっかく韓国を訪れるなら、観光地だけでなく、韓国社会が垣間見えるような場所に行きたい」と思っていたとき、映画『バベルの学校』でお世話になった善元幸夫先生(韓日(日韓)合同授業研究会の代表も務めていらっしゃいます)が紹介してくださったのが「安山市」です。
ソウル市内から電車で1時間ほどのところにある安山市は、韓国で一番外国人労働者が多い街です。
韓国では、現在の高齢化率が12%、2055年には30%になると見られており、一方で、出生率は1.1と、少子高齢化がどんどん進んでいます。そのなかで、国として、外国人労働者を積極的に受け入れているのだそうです。
安山市に居住登録されている外国人は、2008年の時点で3.8万人、2015年4月30日現在では約2倍の7万人に増え、居住登録をしていない人を合わせると9万人いると見られています。国籍所有者、無国籍者を含め、約80カ国からの移住者で構成されています。
なぜ安山市に外国人が集中しているのか。一番の理由は「仕事がある」ためです。もともとは農漁村地域だった安山市ですが、1970年代後半、ソウルに集中していた人口と工業を分散させる目的で、首都圏内の工業都市を建設する計画が立った際、安山市が選ばれました。1997年のIMF危機で、経済危機、人材不足に陥り、低賃金労働力として外国人労働者を雇うようになりました。現在、安山市のなかには仕事紹介所が190カ所もあり、韓国のなかでも一番、日雇いの仕事があるそうです。
そしてそんな安山市に暮らす外国人をサポートしているのが「安山市外国人住民センター」です。
センター外観
このセンターが提供しているサポートがすごいのです!!!かなりたくさんの内容があるため、以下、簡単に列記させていただきます。
- 多言語図書館
様々な言語の本が1200冊設置されている。毎月1200人が利用。 - 無料診療所
週7日間開いている。特に受診者が多い週末に、力を入れている。診察を行なう医師は皆ボランティア。薬等も持ち寄って診療している。 - 送金センター
毎月1万人が利用。IBKは毎月4億円、大韓銀行は毎月10億円、それぞれ送金されている。 - 通訳相談センター
土曜日以外、開いている。仕事をしていて怪我をしたときや、給料の不払い問題があった際などに、通訳を介して相談に乗る。(相談者⇒各国の言語の通訳者⇒韓国の行政に詳しい人⇒関係部署へ連絡、という連携。) - 多文化情報学習館
安山市周辺に住む韓国人の人たちが、他の文化を学ぶための施設。 - 多文化コミュニティセンター
会議室を無料貸し出し。 - グローバル多文化センター
宗教問題や子どもたちの問題を扱う。
外国人2名、韓国人7名が常駐し、条例を作成したりしている。 - 朝鮮語の無料授業
毎年4000人が受講。(この言語教育がかなり重要!!…というのも、移住してきている人たちは、大卒の人が多く、もともと医者をやっていた等、スキルを持っている人も多い。ただ言語ができないために、最初は日雇い仕事をしているため、言語ができるようになれば、もともとのスキルを活かした新しい仕事を見つけることができるそうです。) - 職業教育、運転免許教育の無料提供
運転免許教育は、自分の国の言語で受けられるように体制を整えている。(基本的には安山市住民対象。余裕があれば市外の人も受け入れる。) - 緊急の場合には生活費の貸し付けも行なっている。
- 家族センター
生活面に関わる相談の受け付け(離婚問題など)。毎月7500件ほど。 - 「多文化日報」という新聞を発行
- 母国語教育
学生は無料、社会人は有料で開講。
※居住登録していない人も、無料医療と通訳相談は受けられる。
多言語図書館
通訳相談センター
これでも省略しているぐらいですが、とにかくあらゆる面からのサポートを、しかもほとんど無料で、提供しているのです!!
さらにこれらのセンターの活動は、14カ国48人の人にモニタリングをしてもらっていて、各国の人の生の声を取り入れ、反映するようにしているそうです。
又、面白いのが、各国の住人の人たちが自発的に自分たちの国の「お祭り」を開催しているということ。安山市には、タイ、インドネシア、モンゴル、パキスタン、ロシア、ウズベキスタン等々の料理屋さんも揃っており、街の中で常に「多文化」を味わえる環境になっていて、住人同士がお互いの文化に触れられる環境にもなっています。(ただ、人の入れ替わり(移動)が激しいため、一人一人に「安山市の街を発展させよう」という意識はないそうですが…。)
この日は日本でなかなか巡り会えないウズベキスタン料理屋さんに行ってきました
もちろんそんな安山市にも課題は・・・
たとえば、(1)ホームレス問題、(2)ゴミのポイ捨てや不法投棄の問題(ゴミ処理をするのに年間約2000万円かかっていたそう)、(3)犯罪など。ただ、夜間監視などを行なうようになってからは、(2)(3)ともに減ってきているそうです。
一番大きな課題と言えるのが子どもたちの教育。
韓国人と外国人、外国人同士の間に生まれた子どもたちが、安山市のなかだけで、のべ5549人いて、うち学校に通っている子どもの割合は、それぞれ33%と68%。背景としては、韓国で教えられる事以外のこと(母語・母文化等)を学ばせたいという親御さんの声があったり、イスラーム教徒の女の子の場合、肌露出のある制服の着用に困ったり、逆にヒジャーブ(スカーフ)を被れないことに困る着ていく服に困って行きたくないという声もあるようです。
また、たとえ韓国語は身につけても、母国で専門教育(理科等)を受けてきていないため、結局ついていけなくなってしまう子も多いそうです。(しかも、分からないところを親御さんに聞いても、親御さんも答えられず…。かといって、月収20万円程度のところ、塾代4万、塾に通う交通費2万を捻出するのはかなり困難で…。)
ただ、この課題に関しても、家に訪問して二重言語教育(韓国語と母語で教える)を行なうなどの工夫が徐々になされていて、移住してきた人たちにとって住みやすい環境にするために、とにかくどんどん進化し続けている印象を受けました。
そして何より驚いたのは、上記に挙げた諸々のサービスの多くが韓国人のボランティアの人たちによって支えられているということです。韓国のなかでも、当初は外国人労働者の受入に抵抗のある人がいたそうですが、今では慣れて、減ってきたそうです(笑)。韓国の未来を支えるであろう外国人労働者の人たちを、韓国の人たちがサポートする。そんな “循環”があるような気がしました。
少子高齢化、そしてそれに伴う労働力の減少は、日本にとっても避けがたい問題です。さて私たちはどんな選択をしていくのでしょうか?そしてその選択に、私たち一人一人が、どれだけ「参加」(協力)できるでしょうか??
たっぷりお話を聴かせてくださった安山市外国人住民センターのJeong Myeong Hyeonさん(右から2番目)、貴重な機会をセッティングしてくださったChoja Yunさん(左端)、とても分かりやすい通訳をしてくださった藤田忠義さん(右端)に、改めて感謝申し上げます。