ジュリー・ベルトゥチェリ監督&ブリジット・セルヴォニ先生オフィシャルインタビュー


『フランス映画祭2014』の『バベルの学校』上映に合わせて来日したジュリー・ベルトゥチェリ監督とブリジット・セルヴォニ先生のオフィシャルインタビュー。

※右がジュリー・ベルトゥチェリ監督、左がブリジット・セルヴォニ先生。
以下、監督の回答を(監)、先生の回答を(先)で記載しています。

 

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まず、この映画をつくろうと思ったきっかけを教えてください。

(監)映画の中にも出てきますが、子供たちの短編映画のコンテストが年に1回開催されています。私はその審査員長をやっており、そこにセルヴォニ先生が適応クラスの子供たちを連れてきました。セルヴォニ先生から、20カ国の子供たちが集まったクラスだと聞いて、きっとこのクラスは、異文化が混ざり合うことの豊かさを感じられるのではないかと思いました。近年、ヨーロッパでも人種差別の傾向が強くなっているなかで、各国の子供たち一人一人の個性や価値を映し出す作品をつくりたいと思い、撮影するに至りました。

また、セルヴォニ先生の人柄にも惹かれました。子供に向ける目線がとても柔らかかったからです。直感で何か持っている先生だと思いました。

幸い、学校が自宅のすぐ近くで自転車でも行ける距離だったので、カメラを担いで毎週通い続けました。

 

一年密着取材をしたと聞いています。生徒さんたちがまったくカメラを意識していないように思いますが、どのように距離感を縮めていったのですか?14361545369_290c53fc20_o

(監)まずは自分の自己紹介を大切にしました。自分がどういう映画をつくってきたかということや、自分はどういう人間かということも話しました。子供たちと決してかけ離れた存在ではないのだということ、そして一緒にやっていきたいのだという想いを伝えました。

子供たちは当初、緊張したり意識しすぎたりしていましたが、次第に私が外部の人間ではなく、クラスの仲間だと感じてくれるようになり、カメラにも自然に映すことができるようになりました。

ただ、カメラを意識しない分、子供たちは一斉に話し始めるので、どこにカメラを置いておくかに苦労しましたね(笑)。

 

適応クラスはフランスの様々な学校に設置されているのですか?

(先)フランスには年間約3〜4万人の移民の子供たちが入ってきます。そのフランス語をしゃべれない子供たちのために、フランス全土にこうしたクラスは存在します。ただし、パリに人口が集中するため、フランス全土に840校あるうち140校がパリに、残りの700校が他地域に散らばっています。

小・中・高校、全部の年代向けの学校があり、今回の映画に出ているのは11〜15歳までの子供たちです。

 

適応クラスはどれくらいの規模なのですか?また、どんな子供達が集まっているのでしょうか?

(先)毎年大体22〜26人のクラスです。亡命で来る子と、移民で来る子とがいます。みんなバックグラウンドは多様です。お父さんと一緒に暮らすために来た子や、お母さんがずっとフランスで働いていたために来た子、音楽の勉強のために来た子もいれば、母国で子供は教育を受けられないために、フランスの親戚の家に預けられてきた子もいます。ただ子供たちはみんな、自ら望んで来たわけではなく、親の事情で従わざるをえずに来ています。祖国では大きな家に住んでいて、友達もいたけど、フランスでは小さい家に押し込められて生活しないといけない。最初はみんな苦痛で仕方ありませんが、適応クラスのなかで少しずつ心を開いていきます。

 

適応クラスで教えるときに心がけていることはありますか?

14546558064_c2d0d9a314_o(先)子供たちはみんな非常に情熱的です。確かにこの仕事は難しいですが、私たち教員の側も情熱を掻き立てられます。

子供たちはいろんな経験を経て、学校に来ています。それも自ら望んだのではなく、両親の意向や、様々な経済的・政治的理由で来ています。子供たちには、自分が経てきた困難や辛い生活を言葉にして、表現する機会を与えるようにしています。一人一人話すことによって、自分だけが苦しんでいるわけではないこと、自分は一人で生きているわけではないことを伝えたいのです。また、自分の国のことを一生懸命話そうとすると、「言葉を覚えないと」と言語学習のモチベーションもあがってきます。

 

言葉はアイデンティティの一部だと思いますが、言葉を新しく覚えるということは、言葉を失うとでもあるかと思います。そうした点を子供たちはどのように感じているのでしょうか?

(先)新しい言語を習得することは母国語を忘れることではありません。映画のなかで、「こんにちは」をそれぞれ母国語では何というのか尋ねるシーンがありますが、自分の言葉や文化を否定するのではなく、母国語が素晴らしいものだと再認識し、アイデンティティを保ちながら学んでいくのです。

 

フランスでも、極右の政党が台頭してきたり、移民に対して良い感情を持たない人が増えてきたように思います。今のフランス国民の移民に対する感情をどのように考えますか

(監)移民の問題はヨーロッパでも取り沙汰されています。フランスでは国民の約20%が極右政党を支持しています。ただ極右政党の支持者の中には、フランス政府が問題ばかり抱えているために、それに対する反感から支持している人もいます。

最近メディアでは、何か事件が起きるとすぐに移民を生け贄にして取り上げ報道します。今回の映画はそうした移民の問題が年中起きている訳ではないこと、そして、子供たちにしっかりと教育をすれば、きちんと社会のなかで生きていけるようになることも示しています。

 

日本も移民を受け入れたほうが良いと思いますか?

(監)異文化に触れると様々なことを学ぶことができるので、移民の人を受け入れていかないとフランスは良い国になっていかないと思っています。また、移民の人は母国で生きたくても生きることができないために、移住してきます。彼らを保護することは豊かな国の義務だと思います。隣人に手を貸すという意味で移民の受け入れを続けていけば、フランスで将来もし戦争があったときなどに、周りの国の人に助けてもらえるとも考えています。

 

(先)全く同意見で、異文化に触れることで様々なことを学ぶことができますし、それは生きる上で大切なことだと思います。そもそもフランス文化も、たった1つの文化で成り立っている訳ではありません。違いとは、一つの豊かさの象徴なのです。そういうものを糧にして生きていく必要があると思います。

 

映画を通して伝えたいメッセージは何ですか?

(監)まず、国や文化の違いは決して悪いことではなくて、素晴らしいことなのだということをお伝えしたいです。「みんなと同じ」である必要はありません。そのほうが安心できるかもしれませんが、もっと自分の個性を出して生きていきましょう、と言いたいです。

また、他人を受け入れること、他人に偏見をもたずに接することは、非常に大切だということもお伝えしたい点です。相手を理解することで人種問題もなくなり、共存していけると思います。外国人を温かい目で迎え、隣にいる人にいつも手を差し伸べる心がけが必要だと考えています。他人の立場に立って考えるのです。適応クラスが、日本を含め、世界各国でできるといいですよね。学校で一度躓いてしまうと、一生の問題になって、社会に馴染むことができなくなってしまいます。受け入れてくれる場所がないと、益々孤立してしまうのです。

また、成績だけを重視しないことも大切だと考えています。例えばセルヴォニ先生は、3回まで同じ試験の受験を認め、そのなかで一番良い点数を反映してあげています。フランスでもまだ成績を重視するところが多く、躓いてしまう子も多いです。そうした教育体制も変えていく必要があると思います。「試験試験...」と言って子供を追いつめるのではなく、子供たちが学校に楽しく通えるのが一番ではないでしょうか。

 

今後の予定を教えてください。

(監)まずは1つフィクションものを撮る予定です。これは家族をテーマにした作品で既にシナリオは完成しています。また、ドキュメンタリーも撮影予定で、こちらは障害をかかえる25歳の女性を追った作品になる予定です。

ただ、どこにどんなご縁があるかは分かりません。この映画を撮ることができたのもセルヴォニ先生にお会いできたご縁のおかげです。もしかしたら日本滞在中にも新しいご縁があるかもしれませんね。

 

(先)ずっと教師をしてきましたから、まさか自分が映画に出るとは思っていませんでした。大変すばらしい経験をさせていただきました。今はフランスの先生方を指導する立場におりまして、今後もその仕事を続けていくつもりです。

※ブリジット・セルヴォニ先生は映画の撮影後、24の学校、380の先生を監督するフランス国民教育省の教官となりました。

 

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