鮫島弘子(株式会社andu amet 代表取締役)
今から14年前、ボランティアとして初めてエチオピアに渡った時、それまで訪れたどの途上国とも比べ物にならないほどの貧さに衝撃を受けた。だがそれ以上に衝撃を受けたのが、その貧しい国の人たち自身が援助漬けになっていて働いていないという現実だった。
そんな現実を目の当たりにした私は、この国で援助ではなくビジネスを立ち上げたいと思うようになり、現地に工房を設立し、可能性のある若者たちを雇い、技術指導を始めた。だが、そこへまたしても援助の罠がやってきた。職人見習いの一人が、とある教会系NGOが始めた”途上国のかわいそうな女の子”対象のバラマキ支援金を受給することになり、辞めてしまったのだ。その支援金を受けるためには、無職無収入でなくてはならなかったし、その支援があれば、働かなくても食べていけたから。
あの子があのままうちで働いていれば、今頃は一人前の職人として自立していただろうに(他の見習いだった子たちが今ではそうなっているように)、そのための手足を援助の刃で無残にもがれてしまった。
この映画を見ながら、ふと彼女のことを思い出した。
それから一人でも多くの人にこの映画を見て欲しい、と思った。
大切なことは大抵、複雑で、ややこしい。だから、ついつい私たちは本当に大切なことに目を背け、シンプルで分かりやすい言葉に流されてしまう。途上国支援や国際協力の分野はその最たるものと言えるかもしれない。この映画では、そんな、複雑でややこしい途上国支援の現実を一つの側面から丁寧に見せてくれる。