同性婚は今年、全米で合法化されたが、この運動の切っ掛けとなったのが、カリフォルニア州における同性婚の非合法化の撤廃を求める訴訟である。この映画は、その過程についての優れたドキュメンタリーである。
この訴訟を指導したのは、ブッシュとゴアとの大統領選挙を決着させた裁判の、民主党側と共和党側との双方の弁護士であった。特に、ゴリゴリの保守主義者である共和党の弁護士が、「結婚という制度を保守するために、同性婚を認めるべきだ」と考えて、この裁判に立ち上がった、という事実に、深い感銘を受けた。
カリフォルニア州では、同性のパートナーシップを認める制度が存在したが、訴訟の原告となったカップルたちは、それは、自らを「二級市民」と位置づけて差別を認めることになる、と考えて、受け入れず、この裁判に立ち上がった。
私は、「LGBT」などいうものは存在せず、あるのは「性的指向を口実にした暴力だけだ」と考えているが、この映画は、そのことを示していると感じた。
性的少数者を「LGBT」という特別な人種と認定した上で権利を認めるのは、差別なのだ。
そのような差別の残存する社会に生きることは、全ての人にとって苦痛である、ということを、この映画で、確認することができたと思う。
同性婚を拒否する保守主義者には、ぜひともこの映画を通じて、「真の保守主義」について学んで欲しい。
安冨歩(東京大学 東洋文化研究所 教授)
(撮影:烏賀陽弘道 メイク:藤岡ちせ)