中村 隆市さんからのレビュー
中村 隆市さん(ウインドファーム代表)からのレビューが届きました。
ドキュメンタリー映画 『変身 - Metamorphosis』を観た。素晴らしい映画だった。
堀潤さんが、将来の生活が保証されたNHKアナウンサーをやめてまで表現したかったのは何か―私がこの映画を観たかった最大の理由がそれだった。
映画は、福島第一原発3号機の爆発から始まる。がんで亡くなられた吉田昌郎所長が叫ぶ「本店!本店!大変です!大変です!3号機、今、爆発が起こりました!」 「現場の人は退避!退避!緊急連絡・・・」 次に場面は、2013年6月の浪江町に変わる。児童か生徒が避難した学校の荒れた教室の窓から原発が見える。これほど近くに学校があることに今更ながら驚く。
2012年夏の大飯原発再稼働に反対する歴史的な国会大包囲デモを経て、映像はカリフォルニアのシミバレーに変わる。半世紀前に起きたサンタスサーナ原子炉実験場事故で43本の核燃料のうち13本が溶け出して、膨大な放射性物質が放出されたと見られているが、政府は「大気中への放射性物質の放出はなかった」と発表。地元の住民は深刻な放射能汚染の実態を知らなかった。
30年後に実態がわかったとき、花を栽培していた女性は恐怖を感じた。日常的に土にさわっていたその女性は2009年、白血病と診断された。甲状腺の手術もした。情報を隠してきたことについて、米国エネルギー省の担当者は、「念頭に置いておいてほしいのですが、この施設は非常に軍事的で、機密性の高い場所です。簡単に『ここに原子炉があるぜ!』とは公言できません」
住民の要請を受けて、国が放射能汚染の実態調査に着手したのは、実に事故から50年後の2009年だった。セシウム137の汚染数値が通常の1000倍と発表された調査報告会で、おじいさんが報告者にこう聞いた。「私たちが主に心配しているのは、長期にわたって流れ出てくる水や物質、空気中にある粒子でどんな影響を受けるかです。妻は4つのがんを患っていて、もうすぐまた別の手術を受けるかもしれません。私たちが何にどんな影響を受けるのか、それを誰に聞けばいいのか知りたいんです」
「1週間ほど前に、この地域は乳がんになる率が州で1番高く、おそらく国内でも1番高いという調査結果が記事に出ていました」 「シミバレー育ちの12人の40歳以下の若い女性たちが乳がんになったのです、凄い数ですよ」 ―ここまで見て、この映画は、特に福島をはじめとする東北、関東の人に見てほしいと思った。
さらに映画を見ていくと、福島原発事故のあと国は、風向きなどによって放射性物質が流れる方向を把握していたが公表せず、避難者が汚染がひどい地域に「避難」した事実を追う。
2011年3月14日、東電がベントをするときの様子が録画されている。「今、風が陸地側、双葉町方向に向って吹いています。放出にあたっては、ヨウ素の放出量が桁違いに上がります」 「(吉田所長)現場の作業員、うちの社員、1回、こちらに退避させてよろしいですか?」 「(武藤副社長・原子力立地本部長)了解しました」 「(吉田)退避命令出します」 「被ばく評価の結果でました。最大ポイントは、2.2km先、ちょうど敷地境界あたりで、5700ミリシーベルトです。250ミリシーベルト圏内がずっと相馬郡の方まで3時間で広がっていく評価になります」・・・「今、プレスには話すのを(情報を流すのを)止めています」・・・
映画は、もし放射性物質拡散予測システム「SPEEDI(スピーディ)」の情報が公開されていたなら、放射性物質が少ない方に逃げたり、室内で待機することで無用な被ばくをせずにすんだであろうこと。少なくとも放射性物質が多い方に逃げることはなかった―ということを検証する。
次に映画は、原発事故処理の作業員として現場に潜入した男性が、自身も被曝しながら撮影した映像を映し出す。東電の下請け作業員として働く作業員の大半が全国から集められた「日雇い」で、18歳、19歳の未成年も含まれている。放射線の知識もない素人たちの集団が「ウソの履歴書」で経験者に仕立てられ、現場に送り込まれる。
現場は、「1分間に1ミリシーベルト浴びる」驚くべき高線量下での作業であることが明かされた。作業員たちから「不安の声」が上がった。雇用会社の担当者は、「1日1ミリ浴びても8日経てば半減し、ゼロになる」と話し、放射線の影響は蓄積されないと説明した。
高線量の被ばく作業をしながら、2ヶ月間に渡って不正の現場を撮影した男性が語る。「作業をやってきて、どう考えても40年、50年では終わらないだとろう。ということは自分らは40年、50年は生きられないので、これから生まれてくる誰かが行かないと何ともならないんじゃないか。あの原発は1ワットも生み出せないんで、処理するためだけに、これから生まれてくる人が放射線を浴びる・・・原発をつくってきた人たちは、自分たちで片付けられるんならいいけど、実際できてないし、できないじゃないですか」―この言葉は、すべての日本人が心に刻む必要があると思った。
後半、「レベル7」の福島原発事故よりも レベルが2つ低い「レベル5」のスリーマイル島原発事故で起こった被害の実態を取材していく。原発事故当時の風向きとガンの発生率が関連し、スリーマイル事故とガンの増加に因果関係があることがわかる。被ばくした量に応じてガンが増えている。
―堀潤さんが、NHKをやめてまで表現したかったことを一人でも多くの人に見てほしい。そして、一人でも多くの人に上映会を開いてほしいと思う。この映画を配給しているユナイテッドピープル社は、原発事故の後、本社を関東から福岡に移転させ、地域での市民運動にも参加しながら、「人と人とをつなぎ、世界の問題を解決する」をミッションにWebメディアの運営、映画配給・宣伝を行なっている。