チョ・ソンヒョン監督(Sung-Hyung Cho)

チョ・ソンヒョン(Sung-Hyung Cho)は1966年韓国釜山市生まれの映画監督でドイツのザールブリュッケンの単科大学HBKsaar教授で映画制作を教えている。ソウルの延世大学でコミュニケーション論を学んだ後、美術史、メディア学、そして哲学を学ぶために1990年にドイツのフィリップ大学マールブルクに留学。卒業後、ドイツのテレビ局で編集の仕事に携わる傍ら、ミュージックビデオや短編ドキュメンタリー映画の制作を行う。FULL METAL VILLAGE (2006)は処女作で、いくつもの映画賞を受賞している。その後、HOME FROM HOME (2009), 11 FRIENDS (2011), FAR EAST DEVOTION (2015)などを制作している。

「ワンダーランド北朝鮮」チョ監督日本公開に向けてのメッセージ

Q. なぜ今北朝鮮の日常を生きる人たちを描こうと思ったのですか?

これまで私達が知っている北朝鮮というのは、非常に偏った見方しかありませんでした。こういった限られた考え方というのは、我々の考え方も制限してしまいます。特に(韓国の)政権からすると、とても好都合で利用しやすい。北朝鮮は脅威の存在だから、自分の政権維持の手段として使えるという背景もありますので、まずは、別な見方もあることを知らせるために、こういった映画を作ろうと思いました。

北朝鮮に対して偏った固定観念を持ってしまうことは、韓国や日本に限らず世界共通だと思います。特に日本が北朝鮮を異なる見方で見なければいけないと思うのは、今まさに東アジアの情勢が変化しているからです。これまでの対決構図から、平和構図へと情勢が変わっている中で、日本の考え方を変えないというのは、平和構図の中から日本だけが抜け落ちてしまう可能性があるからです。おそらく日本も従来の韓国の状況と似ていると思いますが、まさに北朝鮮が脅威であることを口実に、政権がその状況を利用してしまう状況があると思います。日本の民主化また、将来のために、北朝鮮の実情を知るというのは大事だと思います。

Q. 検閲は免れなったと思いますがどこまで真実に迫れましたか?

これまで私達が持っていた北朝鮮のイメージがあまりにも良くありません。例えば韓国では子供の時から学校の授業でも北朝鮮の人々は頭に角が生えていて、顔も赤くてまるで鬼のような存在だと刷り込まれてきました。こういった考え方を持ち、北朝鮮に入って実際に当局から見せられたものは北朝鮮のいい部分しかなかったので、大きなギャップに戸惑いました。果たして「真実はどこにあるのか?」と大変悩みました。

3つのギャップが存在していて、これまで私たちが実際持っていた北朝鮮に対する悪いイメージと、北朝鮮から見せられるイメージと、実際に北朝鮮入りして、目の前で見たイメージの3つです。これらの隔たりに悩み、考えさせられました。

実際撮影の際には、調査のために4回北朝鮮に入り、5回目6回目で撮影しました。最後の撮影が終わって帰る時に、非常に複雑な気持ちになりました。というのは、私が果たして北朝鮮の実情を撮ることができたのかと疑問を感じたり、撮りたいものが撮れただろうかと、憂鬱な気持ちになったり、自分自身に腹立たしい気持ちになったのです。しかし、実際に戻り、編集などをしながら、映像を一つ一つ細かくチェックしてみると、見えてきました。何が見えてきたかというと、私が撮った映像と映像の間で、間接的に感じられるものこそが恐らく本質的であると気づいたのです。限られているかもしれませんが、ある程度の日常そのものを撮影できたのではないかと思いました。

Q. 日本の観客に向けてメッセージをお願いします。

韓国と日本というのは歴史的に非常に複雑な関係を持っていると思います。未だにそういった複雑な関係を整理できていない状況だと思います。そんな中、日本と北朝鮮というのはさらに非常に複雑な関係を持っていますが、日本は経済的に大国ですし、文化的にも多くのものを作り上げてきた国です。技術的にも先端技術が非常に発展している国でもあります。大国の心を持って、積極的に北東アジアの平和構築のために努力をして欲しいと考えています。

日本はこの北東アジアでリーダーになり得る国だと考えていますが、その可能性を、日本人自身が自覚していないように思います。結果的に出てくる日本の行動が、大国ではなく小国的に見えます。例えばドイツはヨーロッパ中で戦争を起こした国ではありますが、今はヨーロッパでリーダー的な国になっています。自ら過去の歴史を清算し、被害を与えた国々に対して清算していますので、尊敬されている国になっています。日本はまだその段階には至ってないと思うので、その点が非常に残念だと思っています。

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