パーム油は、食用に8割、石鹸、シャンプー、洗剤などの日用品向けの工業製品に2割程度が利用されていると言われています。また大量の温室効果ガスを排出するため本来利用すべきではない発電向けのエネルギーへの利用も日本で近年増加しつつあります。食用では揚げ油やショートニングなどに広く利用されており、即席麺やチョコレート、マーガリン、パンを含めて様々な加工食品に使われています。また外食産業の食用油としても多く利用されています。日本の食品表示では「植物油脂」と書くだけで「パーム油」と書く必要はありません。よって、多くの人はパーム油という名前すら聞いたことがないかもしれません。しかし、日本での利用は年間に60万トン以上あり、一人当たりで年間5kgも利用している計算になります。インドネシアから日本へのパーム油の輸入量は26万トン以上で、映画にも出てくるジャンビ州があるスマトラ島からも来ています。日本の大手銀行も現地のパーム油関係の企業に資金提供を行っています。インドネシアではパーム油を生産するためのアブラヤシ農園開発により、今も多くの森が失われています。そうした森の中には、オランウータン、ゾウ、トラ、サイなど絶滅の危機にさらされている野生動物たちの生息地も含まれています。また農園開発によって、泥炭地と呼ばれる地域から気候変動に悪影響を与えるメタンガスや二酸化炭素を大量に排出してしまう環境問題や、土地を奪われる人々との土地紛争、農園運営の中での強制労働や児童労働を含む人権侵害が頻発しています。
こうした状況を改善するために、2004年に持続可能なパーム油のための円卓会議(R S P O)が設立されました。R S P Oでは様々な基準を定めて、その基準が守られているかどうかの確認を第三者機関が監査することになっています。しかし、その監査体制が不十分であり、問題のある農園もR S P O認証を取得している場合もあります。そうしたケースでは、映画『グリーン・ライ』で取り上げたような、実態と異なる「嘘」の主張がなされてしまうことになります。ただ認証制度では、基準を満たしていないような「嘘」がある場合には、苦情申し立てを行うことによって問題のある農園から認証を取り消したり、是正措置を行って基準を守るように求めるという手段もあります。しかし、グローバルな経済社会の中で、普通の消費者が遠い生産地の状況を知ることは困難なため、上記のような手段を利用することは難しい状況にあります。よって、N G O(非政府組織)やジャーナリストなどからの情報提供が重要になります。一方で、より信頼の高い認証制度として「パーム油革新グループ(POIG)」や各企業の調達方針の実施を通じて、問題のあるパーム油を排除する取組も進められています。その一方で、インドネシアやマレーシアといった生産国の政府が進めている認証制度もあり、それらは森林減少や人権侵害を排除できないような油も認証を取得できるような低い基準になっています。それにもかかわらず、持続可能性をうたっている認証もあるので要注意です。
この映画の監督が求めているように、問題となるようなパーム油の生産方法は法律を通じて禁止するといった措置を取り、消費者の選択肢に委ねなくとも排除できるようにする方がよいという主張は、もっともな意見だと思われます。しかしながら実際には、インドネシアやマレーシアでは法律実施の実効性すらも怪しい状況にあるため、合法的な操業が行われているかどうかについても何らかの独立監査を通じた確認をしていかなければなりません。よって、合法性の確認すらも行われず、市場から排除されていないパーム油もあるため、認証制度や調達方針の遵守確認などを利用して、問題がないかどうかを見極めていかなければなりません。その意味では、実情を確認するために、法執行体制の強化を進め、同時に認証や企業の調達方針の確認体制の強化を進めることも必要になります。そうでなければ、この映画の監督が主張するように「緑の嘘」がまかり通ってしまうことになるでしょう。むしろ、企業が嘘をつけないようにするための法整備の強化も重要になるのかもしれません。
川上 豊幸(レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表)