海がプラスチックで溢れている―。わたしたちには何ができるのだろうか。

解説「プラスチックの海」枝廣淳子(幸せ経済社会研究所所長)

タイトルに注意してほしい。「海のプラスチック」ではなく、「プラスチックの海」である。そう、クジラや魚や貝類やさまざまな水生生物にあふれていたはずの私たちの大事な海は、プラスチックの海になってしまったのだ。
映画「プラスチックの海」は、恐怖心をあおり立てることなく、丁寧に海の現状を伝えてくれる。見た目にはかつてと変わらない、青く澄んだ海が、実際にはその隅々までプラスチックが行き渡っているようすを。海に住む動物たちがこれまでどおり生きているだけ、その体内にプラスチックが入り込み、その命が奪われているようすを。
海洋プラスチック汚染の問題は、ふだんの生活ではその深刻さを見たり感じたりすることがない。海には国境がないので、自国の問題だという認識も持ちにくい。
海洋プラスチック汚染のようなグローバルで深刻かつ重要な問題に直面すると、私たちは「手のつけようがない」「自分ひとりやっても」「悪いのは私(たち)だけではない」と考え、問題を直視することを避けようとしがちだ。
しかし、この映画はそういった問題を「知ること」から始めよう、と呼びかける。知ることから、「気にする、何とかしようと思う」気持ちが生まれる。その気持ちなしには、変化のための行動は生まれないからだ。
「プラスチックの海」は、人間が自然界に、ひいては自分たちに起こしている惨状を伝えるだけの映画ではない。「では、どうしたらよいのか?」「どんな取り組みが進められているのか?」を伝えることで、未来への希望の光も示してくれる。
日本は未来への希望の光の1つになれるはずだ。使い捨てプラスチックの一人あたりの使用量が世界で2番目に大きい日本だからこそ、社会や経済の仕組みを変えていくことで、人々の認識や優先順位を変え、行動変容を促すことができる。高い技術力をもって、海洋プラ汚染の防止や、海に出てしまったプラの回収、回収したプラの安全で有用な処理を可能にするなど、世界に役立てるはずだ。
海の中に思いを馳せよう。自分たちの暮らしや行動がどうつながっているかを考えよう。どんなに小さな行動だったとしても、行動した分だけ状況は変わるのだ。

枝廣淳子(幸せ経済社会研究所所長)