辻 信一(文化人類学者)

ファッションにはかつて4つのシーズンがあった。それが今では52回、つまり毎週、新作の波が世界中に送り出される。一度着ては捨てる、ファスト・ファッションの時代なのだ。こうした衣の大量生産・大量消費・大量廃棄は、地球を痛めつけているばかりか、その生産にたずさわるすべての人々の命をも脅かしている。いや、そればかりではない。安い服に人生の慰めを求める消費者たちも、消費主義の踏み車を踏み続けながら、消費されていく。

とはいえ、これは、単にファッション業界の闇を描いた映画ではない。経済とは何か、貿易とは何か、貧困とは何か、グローバル化とは何か、という基本的な問を立てて、その一つひとつに答えを見出していく。

平和が、民主主義が、自由が脅かされていると感じている現代日本の若者たちに、この映画をぜひ見てもらいたい。そして、ぼくたちを支配する巨大なグローバル・システムの全体像をしっかりとつかんでほしい。それができればもう、ぼくたちがすべきことは明らかだ。

ニューヨークの同時多発テロとそれに続く対テロ戦争という暴力の連鎖に対して、いったいどうしたらいいのか、と問われたノーム・チョムスキーはこう答えた。「簡単なことさ、参加するのをやめればいい」。そう、ぼくたちも、このシステムに参加するのをやめればいいのだ。

ファスト・ファッションを抜け出せば、そこに、スローで安らかで美しい、本来の衣服の文化が見えてくるだろう。

辻 信一(つじ しんいち)

文化人類学者。環境運動家。明治学院大学国際学部教員。「スローライフ」「GNH」「キャンドルナイト」などをキーワードに環境=文化運動を進める一方、環境共生型の「スロー・ビジネス」にも取り組んできた。東日本大震災以後は、「ポスト311を創る」キャンペーンを展開。
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