9月26日(金)kino cinéma新宿にて映画『キス・ザ・フューチャー』上映後トークゲストに人気ロックバンド・lynch. のギタリスト悠介さん、司会には武村貴世子さん(ラジオDJ・国連UNHCR協会 国連難民サポーター)をお迎えしました。
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武村貴世子さん(以下 武村 敬称略):lynch.のギタリスト悠介さんをお迎えします。今日は宜しくお願いいたします。
lynch.悠介さん(以下 悠介 敬称略):宜しくお願いいたします。
武村:なかなか無い機会ということで、楽しんでいただければと思います。ちょっと聞いてみたいのですが、今日、悠介さんがトークされるということでいらっしゃった方どれくらいおられますか。あ、ほぼほぼということで!安心してください。ここは“ホーム”です(笑)
悠介:いえいえ、とんでもないです(笑)
武村:(笑)安心してお話いただければと思います。宜しくお願いします。映画をご覧になった後なので、それぞれ今色々な思いがあると思いますが、皆さんの表情を見ると、感動したり考えるところがあったと思うのですが、まず悠介さん、この映画をご覧になって、どのような感想を持たれましたか。
悠介:そうですね、まず、ボスニアの紛争が起きていた頃、僕は小学校6年生くらいで、当然その当時はインターネットも無いですし、世界に視野を広げるということも無かったですから、実際こういうことが起きていたというのを映像で観て衝撃を受けました。紛争を経験された方々の、それぞれの戦い方があって、紛争をどう生き抜いていくかというところに勇気をいただきましたし、あとはU2のライブですね。観客が撮っている映像がYouTubeに上がっているんですけど、映像が荒いということもあり、その映像は最後まで観ることもなく(苦笑)。でも今回こうして、ちゃんとしたオフィシャルの映像…。
武村:初めての公開ですもんね。
悠介:そうですね。クリアな映像と良質な音で観られたというのは、すごく貴重な体験だったなと思いますね。
武村:ご覧になった多くの方が、ライブのシーンが非常に印象的だったのではないかなと、あ、すごく頷いていらっしゃいますね。後ほどじっくりその辺も伺っていきたいと思いますが、U2のライブ以外のシーンで、悠介さんが印象的だったエピーソードやシーンはございますか。
悠介:そうですね、先程もちょっと話したんですけど、それぞれの戦い方というところで、元通信技師の方が、妨害したい周波数に大音量でピストルズの曲を流すというその人の戦い方にも勇気をいただきましたし、あとはミスコンですね。
武村:ミス・サラエボ。
悠介:男は武器で戦う、女性は美しさで戦うという。多分僕だったら、紛争の恐怖に負けそうな気がするんですよね。自分は何ができるんだろうというのを瞬時に考えられないというか、その中で自分たちの戦い方というのを自分たちで見つけて抵抗していくという美しさというか。
武村:ご覧になった方も、こういう抵抗の仕方があるんだ、音楽を好きでいることが抵抗になるんだということを初めて知ったという方も多いかと思います。
悠介:そうですね、はい。
武村:今日は悠介さんをお招きして、まさにその“音楽”の部分を、じっくりお伺いしたいのですが、U2は主に1980年代から活躍しているバンドですが、悠介さん、U2を敬愛していらっしゃるということで、聴いたきっかけや、どんなところに影響を受けたのかというところを伺いたいと思います。
悠介:もともと両親が、特に母親が好きで、幼少期の頃から家で流れていて。本格的にちゃんと自分で聴こうと思ったのが小学校6年生くらいの時です。
武村:その時のアルバムが…
悠介:その時僕が聴いていたのが『ヨシュア・トゥリー』とか、『WAR(闘)』ですね。実は、『アクトン・ベイビー』と『ZOOROPA』はその当時は通っていなくて。
武村:U2のファン的に、んーこれはU2じゃないという話があったんですよね(笑)
悠介:ありましたよね(笑)家でも流れてなくて。それで後追いで、『ポップ』が出たあとに自分で買って。
武村:97年ですね。まさに『ポップ』が出た1997年の9月23日にこのライブは開催されたということで、ちょうど先週ですね。28年前です。ZOO TVツアーって知っていましたか。
悠介:そういうことが行われたというのは後追いで。確か東京で終わっているんですよね。
武村:ZOO TVツアー、そうです、東京ですね。
悠介:1997年の12月10日とか東京ドームとかで終わっていると思うんですけど。後で知ったという感じですね。
武村:ということは、この映画で改めて、インターネットが無い時代に、サラエボの人々をライブに登場させるという演出をじっくりとご覧になったかと思うんですけれども、ご自身もライブをやっているじゃないですか、ライブの演出に、あのような映像を入れていくというのは、悠介さんご自身どう思いましたか。
悠介:そうですね、僕がやっているバンドが、U2のように社会的なことや政治的なメッセージを謳っているわけではないので、僕らがそれをやるというのは難しいところではあるんですけど、でも当時としては革新的な演出だったし、それがあったからこそ、サラエボの人々の現状、実情というのを、ライブに来ている観客たちに知らせることができたと思います。あのタイミングでZOO TVツアーをやっていなかったら、サラエボの人たちは孤立していたんじゃないかなと。あの演出はすごく良かったなと思いますね。
武村:たしかに、メディアが報じないんだったら俺たちが行くというということですよね、あのU2の行動というのは。ただ彼らもやっていくうちに、彼ら自身も気づく、色々考えていくというのは、私たちも非常に考えさせられる場面だったんじゃないかなと思いますね。今インターネットの時代ですから、今の方がああいった演出をもっと楽にできる時代ではありますよね。
悠介:そうですね、はい。ただ、中途半端な知識とかで、それをバンドがやるのはなかなかリスクがあったりするので。インターネットの使い方もそうですよね、上手く使っていかないと時には牙にもなってしまいますし。
武村:U2として、もちろんボノを筆頭に、すごく勉強もされているんですけど、やっぱりルーツとして、自分たちの国が同じように、分断があったというところは、彼らにとっての土台になるんじゃないかなと思うのですが。とはいえ、じゃあ経験が無いとそういうことってできないのかとなってしまうと、私たちも決して経験は無いじゃないですか。
悠介:そうですね、戦後80年と言われてますけど、僕らは実際に体験はしていないので、見聞きしたものだけではあまり語れないところもあったりするので、難しいなというところはあります。
武村:そういった時にこういった映画って助けになってくれますよね。
悠介:そうですね。やっぱり知識があるのと無いのとでは全然違ったりもしますので、こうやって分かりやすい映像で目に入ってくるというのは、すごく自分の人生を豊かにしてくれる一つなのかなと思います。
武村:この映画の制作陣にも、やはりこの作品を観ることによって、やっぱり知ってほしい、そして未来につなげてほしいという思いがある。
悠介:そうですね。
武村:今日こうして悠介さんがこの映画のトークイベントに来られるということで、「お、ちょっと意外」と思った方も多いと思うんですけど。
悠介:僕自身も意外だと思っています(笑)
武村:まあもちろんU2、ご自身も色々とつながりもあるんですけれども、インスタグラムなどを拝見しますと、JIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)のチョコ募金でシリアやイラクの子どもたちへの支援も継続されてきましたし、国内での自然災害時もいち早く寄付などもされたりと、悠介さんなりの行動っていうのはされてきたかと思うんですけど、お伺いしたいのが、ミュージシャンが世界や社会と関わることについて、悠介さんはどのようにお考えになっているんでしょうか。
悠介:うーん、難しいですね。まだまだのミュージシャンなので、大それたことは言えないですけれども。でも先ほども言いましたけど、知識があるのと無いのとでは、自分の豊かさだったりとか、人間の深みというのがやっぱり違ってくると思うんですよね。それって音楽を作るうえで深みが出たりとか、制作していくうえでの参考にもなりますし、例えば、メッセージ性を込めたものを出したいという時に、絶対何かしらの情報がないと発信できないので、関わることというのは大事なことだと思います。それはミュージシャンに限らず、一人間として自分自身何ができるんだろうかと考えるきっかけにもなりますから。
武村:音楽って人間が作るものですから、やっぱりこれまで悠介さんが作られた楽曲も悠介さんの人間性だったり人柄も音に込められていると、感じていらっしゃる方たくさんいらっしゃると思うんですけれども、まさにそういった人の想いが音楽になった瞬間がライブ、最後のシーンなんじゃないかなと思います。私たちは当時何があったか今日映画で知りましたし、言葉も同じ共通言語というわけではないけれど、最後のライブで感動しているあの表情が分かるって思った方きっといらっしゃると思うんですよね。音楽で感動する経験をしたっていう。これがまさに音楽が持っている大きな力なんじゃないかなと思うのですがいかがでしょうか。
悠介:そうですね。やっぱり音楽の力というのは人を癒やす力というのも当然あると思うんですよね。心が傷ついた時とかに聞いたりするじゃないですか。逆もしかりで、ダウナーな気持ちになりたいとか、ハッピーになりたい時とかもそうですけど、なんか感情に寄り添えるものなのかなと思うんですよ。中には、音楽は必要ないっていう人もいますけど、それでも人生において切っても切り離せないものなのかなと思います。
武村:本当に生きるために音楽があったからこそ、サラエボの人たちは生き延びられた。音楽の力があったからこそ、U2が一緒に共感できたというところが、やっぱりこれはすごく大きなところで、最後に出てくるじゃないですか、「あのコンサートは今の方が必要なんじゃないか」という、私はそこにすごく感慨深いものがあって、過去のドキュメンタリーを振り返っていくと、だんだん今に通じるものを、一人ひとりが感じていくと思うんですけれども、悠介さんはいかがでしょうか。
悠介:経験されている方だから言える言葉なのかなというのもあるんですけど、まさに最後の女性の言葉にハッとさせられました。あの紛争から30年経っても、今もなお愚かな指導者が同じようなことを繰り返しているじゃないですか。何で武器を持つ必要があるんだろう?って考えてしまいます。あの言葉を言わない日が来るといいなという思いはありますね。
武村:そうですよね。サラエボはあそこで一度終わったけれども、新たな戦争、紛争というのは続いていて、映画の中に出てきた虐殺があったから、動き出して、最後空爆で収めたんですけれども、あれが第二次世界大戦後、最も大きな虐殺だった、と言われているんですけど、現状、世界で今、国を追われている人、難民となっている人が1億2,000万人以上いて、実はこれ第二次世界大戦後、今2025年が一番多いんですよ、数字としては。なので、あの時よりも世界の状況は悪化している、ということを考えて、やっぱり改めてコンサートが今必要なんじゃないかという風に考えると、すごく私は大切なメッセージだと思いました。
悠介:そうですね、はい。
武村:どうですか、でもこの映画を観て、悠介さんがこれからミュージシャンとして活動していく中で、何かヒントだったり、やってみたいなと思うこととか、ボノもサラエボに行けるとは思っていないけど、行くよって言って、それが言霊になっていくじゃないですか。ここはもう本当自由に考えていいかなと思うんですけど。
悠介:現実的なことも考えちゃったりするので。
武村:いいですよ、理想と現実分けても良いですよ。
悠介:大きなことは言えないんですけど、音楽の力を常に僕は信じているので、誰かの心に寄り添えるような音っていうのを出し続けていきたいなというのはありますね。それが万人に刺さらなくても、誰か必要としている人に刺さってくれたらいいかなという。そこから、徐々に広がってもらえれば。なんていうんですかね、平和に向けての一歩じゃないですけど、進んでいくんじゃないかなという、自分の中でそういった希望はあるんですけど。そういうことを今回、映画を観て改めて強く感じました。
武村:この映画もたまたまMTVを観ていたらボノが喋っていたというところで、本当に誰が観ているかわからない。だからこそ、やっぱりミュージシャンが見捨てずにこうやってメッセージを発信し続けた。「僕たちはちゃんと考えているよ」と言うことが、どれだけ大きな力になっていたか。なので、悠介さんが作っている音楽も、どこに届くかわからないですね。これからね。
悠介:今の時代、インターネットが普及して、色んな方が聴けるので、そういう思いも込めて、一音一音ちゃんとしっかり心に届くように、心がけていきたいなと思います。
武村:もしかしたら、今すごく悲しい、辛いって思いをしている世界の人にも、ふとした瞬間に届くかもしれませんし。
悠介:そうですね。
武村:ありがとうございます。というところで、もうあっという間に時間が来てしまって、なかなかこういうお話をする機会ってこれまでなかなか無かったかとは思うんですけれども、ぜひこれを機会に、さまざまな形でまた、お話をさせていただければと思います。最後に皆さんにメッセージをひとこと、ご挨拶をいただきたいと思います。
悠介:そうですね、今回この映画を通じて、改めて自分自身が今後何ができるかということを考えるきっかけになりました。皆さんもそれぞれ自分の生活時間があるので、余裕がないと、なかなか外に目を向けることはできないと思うんですけど、余裕ができたときにでも、今の自分だったら何ができるだろうかということを考える時間を作ってもらえたらなと思います。
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