本イベント主催のユナイテッドピープルの柴田です。先日、映画『プラスチックの海』教育機関用DVD発売(1/4)を記念して、
本作22分版の短編上映&シンポジウムを開催しました。
【シンポジウム登壇者】
・マクティア マリコさん(mymizu共同創設者)
・井田徹治さん(ジャーナリストで「追いつめられる海」著者)
・清野聡子さん(九州大学大学院工学研究院 環境社会部門 准教授)
・高砂淳二さん(自然写真家、海の環境NPO法人“Oceanic Wildlife Society”理事)
上映後のトークでは、ゲストの方々の活動紹介をはじめ、それぞれの視点から海洋プラスチックごみ問題について活発に
意見交換いただきました。
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海洋プラスチックごみ対策における日本の課題点
井田徹治さん(ジャーナリスト):
●リサイクル中心の対策は完全に行き詰まっている
・日本国内では、250億本ものペットボトルを使っており、その回収率は約90%だが、10%(25億本)はどこかへいってしまう
ため、比率ではなく絶対量で減らしていく必要がある。
・国内で出るプラスチックごみのうち、7割は燃やされており、回収したごみを燃やし、エネルギーとして活用する
ことも「リサイクル」とみなしている。“脱炭素”を目指すうえでは、焼却もできなくなる。
(=サーマルリサイクル:海外では通じない和製英語)
・日本はプラスチックごみを海外へも輸出しているが、かつての主な輸出先であった中国が近年輸入を禁止した。
リサイクル推進ではなく、元々のプラスチック量を減らす根本的な政策転換が必要。
文化的背景からみた海洋プラスチックごみ問題
清野聡子さん(九州大学 准教授):
●海の恩恵を受ける文化
・昔は、漂流してきた木材等を燃やして焚き火や肥料として利用しており、海からやってくるものは“恵み”とされていた。
・海を通じた交易や文化の伝達があったが、現在では、沖ノ島と対馬の間の海流をごみが流れていく。
・福岡県の宗像では、漁師が海のごみを拾っており、これまで水産業関係者のあいだではタブー視されていた海ごみ問題を
切り開いていく若い漁師がグループとなって出現し始めた。
●水の流れに境目はない
・海ごみは、一度国内から出ていくと回収されない限り漂流し続けるため、ひとつの国では解決できず、運命共同体的に人類全体
で協力していく必要がある。
・海ごみ問題>川の問題>陸の問題>生活の問題 という繋がりを意識する必要がある。
世界の絶景にみるごみ問題
高砂淳二さん(自然写真家):
●ごみで溢れてしまった景色
・南米ボリビア、ウユニ塩湖のそばにある町では、ここ何年か観光客が押し寄せて経済活動が活発になったが、
焼却炉がなくプラスチックが散らかり放題。風でそこら中に舞ってしまう。
・沖縄県波照間島の日本最南端の砂浜は、ペットボトルをはじめたくさんのゴミで埋め尽くされていた。
対馬の美しい海岸には、微粒子化した発泡スチロールが、まるで真っ白なビーチのように海岸を被っていた。
●動物たちへの影響
・カナダのセントローレンス湾では、ビニールシートを飲み込んで死んでいたアザラシが見つかった。
・太平洋ゴミベルトの縁にあたるミッドウェー島にて、親鳥が雛鳥の口に運ぶのはプラスチックの欠片や
使い捨てライターなどであった。
※本作の長編版には登場するが、胃がプラスチックで満たされた雛鳥は、羽ばたくこと無く死んでしまうこともある。
・プランクトンよりも小さいマイクロプラスチックもあるため、食物連鎖の中で次々と流通していく。
プランクトンは、海中に生息する生き物の98%を占めるといわれ、その影響は計り知れない。
●ハワイの先住民族から学ぶ「アスキング・ルール」(自然への感謝や愛情)
・植物を摘むときや魚をとるときは、「私はこういう用途であなたをとりたいが良いか」と尋ね、最低限の量をとらせてもらう
というルールがある。
→日本でもかつては”足るを知る”という文化があったが今は衰退してしまっているため、ごみ問題と併せて精神的な部分も
学ぶ必要がある。
使い捨てペットボトルを減らすアクション
マクティア マリコさん(mymizu共同創設者):
●日本初の無料給水アプリ「mymizu」
・世界20万箇所のカフェや公共施設など無料で給水できる場所を「mymizuスポット」として気軽に見つけることができる
プラットフォーム。アプリはこちら
・企業や地方自治体など幅広いパートナーとコラボしながら教育や啓発、コミュニティ活動を行っている。
根本的なシステムチェンジに向けて
●ビジネスセクターの動きについて
清野聡子さん:
・企業においては、社会を変えるために踏み出したステップの先にもビジネスが回っていくという安心感を創ることが重要。
・国際的な動きにならい、日本も「これだけ頑張れば評価され、株主もついてくる」といったインデックスを創ると良い。
●海外と比較した日本の政治
例)2018年G7で採択された海洋プラスチック憲章にて日本とアメリカの2カ国のみが非署名。
井田徹治さん:
・ごみ問題に関しては大きく2つの理由で遅れている。
① 日本の政策決定において、企業の利益を守るということが重要視されすぎている。
② 海外では、「削減、減らす、禁止」は当然のことだが、日本ではリサイクルさえしていればという認識で、
漸くレジ袋を有料化したばかり。
・レジ袋については、業界配慮でバイオマス素材が25%入ってればよいといった抜け道が作られているが、
バイオマス素材でも石油でも、完成形はプラスチックである。
高砂淳二さん:
・フランスにおいては、国民の8~9割の賛成が後押しとなり、野菜や果物のプラスチック包装が段階的に禁止に。
「国民的意識や社会の雰囲気をどのように創っていくのか」
「企業や政府にどのようにして私たちの声を届けていくのか」
意識の変化→システムチェンジへの道筋
マクティア マリコさん:
・「やればできる」という実践的な機会が重要。
企業とコラボした「mymizuチャレンジ」では、1ヶ月間マイボトルを使い、ペットボトルを減らす取り組みを実施し、
参加者(従業員)から「生活を考え直すきっかけとなった」「家族全員で取り組んだ」など前向きな感想があった。
→挑戦したことが変化に繋がった事例。
・亀岡市におけるレジ袋禁止条例
自治体が10年かけて地元の研究者と一緒に取り組みつながりを構築し、ごみ問題への関心を高めた結果、禁止条例を出せる
雰囲気を作り出した。
・神戸市における熱中症対策キャンペーン
2021年の夏に実施。熱中症対策といえば、よく見る水分補給(ペットボトル)のマーク。
mymizuは環境局、健康局と一緒にアプリの活用を進めたところ、キャンペーン期間中に150ほどのお店が給水スポットに
登録した。
高砂淳二さん:
・メディアのニュースの伝え方、取り上げ方も重要。問題を暴き、良い者と指摘される者の対立構図ではなく、
アイデアを出しやすい体制づくりができると良い。もともと、プラスチックも人間が「こういうものがあったら」
という希望が現実化したものなので、問題を解決する世の中をイメージし、その現実化が可能であることを信じる。
井田徹治さん:
・地方自治体単位でネットワークを構築し取り組みを始める。
自治体で取り組むことで、ごみ削減、mymizu利用が増えれば水道事業も活性化する。
例)亀岡市におけるレジ袋禁止条例、鎌倉市役所における自動販売機ペットボトルゼロ 。
清野聡子さん:
・地方自治体単位であれば、市民も自分が生きているコミュニティレベルで考えることができるので取り組みやすい。
~ゲストからのメッセージ~
マクティア マリコさん:
大きな変化を起こすには、文化を見直し一緒に創っていく必要がある。
「自分には何もできない」ではなく、周囲の人々(家族や友達)に影響を与えることができる。今回参加された方々は、
周囲に(プラスチック問題などについて)伝えるだけでも良いスタートになると思う。
井田徹治さん:
「ボイスとチョイス」について伝えたい。
我々は、日常生活のなかで常に選択があり、環境に与える影響をいかに小さくできるかを考え、一生懸命取り組む政治家や企業を選ぶという“チョイス”が重要。また、それだけでなく“ボイス”(声を上げること)も重要。例えば、スーパーの「お客様の声」、
そして周囲の人にもボイスをつなげていくこと。この両方に取り組みと、意外と早く世の中が変わるかも。
高砂淳二さん:
自分ひとりが取り組んだことで、目に見えて何かが変わる実感はないかもしれないが、生活の中で一つ一つ自分で選んでいくこと。「変化が出たからやってよかった」「変化が無いからやっても意味がない」ではなく、自分が良いと思ったことをやること、その積み重ねが人生を構築していく。自分で選んだことをやっていくことが素晴らしく、そう思って取り組んでもらえると意味が感じられるのではと思う。
清野聡子さん:
ごみの研究を始めたときは、「もうこんな研究したくない」と思ったが、生活のなかでプラスチックのことを考えるようになるとこれまで使えないと思っていたものが意外とそうでもないと実感する機会に恵まれるようになった。
地球上の木や皮、竹など色々なものを使ってきた人類の知恵があり、プラスチックを使う前の生活を想像して感動できるようになった。そういった面白さを感じながら、どうやって地球上で生きていこうかということを、色々な世代の人と考えていけたらいいなと思う。
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