映画『手に魂を込め、歩いてみれば』の劇場公開が始まりました。公開の最初の週末12月6日(土)シネ・リーブル池袋で行われたセピデ・ファルシ監督の上映後Q&Aの様子をお届けします。聞き手は本作配給会社、ユナイテッドピープル株式会社代表の関根健次でした。
関根:
『手に魂を込め、歩いてみれば』劇場公開最初の土曜日にご覧いただきまして、皆さんありがとうございます。この映画の配給会社、ユナイテッドピープル代表の関根と申します。皆さんに、この映画を届けられる日を心待ちにしていました。今日、進行を務めさせていただきます。それでは監督をお招きしたいと思います。セピデ・ファルシ監督です。初来日となります。拍手でお迎えください!
まず、監督には、今日、こうやってステージの前で劇場公開後にお話になる最初の回になります。まず、何を今、日本に来て伝えたいのかということを率直に聞きたいと思います。
ファルシ監督:
こんにちは。今日、ご来場いただき、本当にありがとうございます。
こうやって公開後、初めて日本の皆様の前で話すことができることを本当にうれしく思います。
まず皆さんに伝えたいのは、ガザでのジェノサイドが終わってはいないこと、いまだに人々が殺され続けているということです。というのも、最新のニュースを昨夜、ガザの北部に住むファトマの親友から受け取ったばかりなんです。
ですから今、ファトマの証言や言葉、映像を共有することの重要性はますます必要だと思っています。なぜなら、殺戮が決して終わっていないからです。私たちは語り続けなければなりません。

関根:
ファトマは残念ながら、残酷にも殺害されてしまいました。この殺害は、イスラエル軍による意図的な攻撃だったのでしょうか?
ファルシ監督:
はい、残念ながらそうです。イスラエル軍による意図的な攻撃だという証拠があります。ロンドンの研究グループ「フォレンジック・アーキテクチャー」による調査が行われました。15ページの報告書による弾道調査と3Dモデリングを通じて、彼女の家に対する完全な計画的・標的型攻撃であったことが確認されました。
ドローンが、建物の上に2発のミサイルを落とし、そのミサイルは爆発せずに3階分貫通し、彼女が家族と暮らしていた2階で爆発するよう設計されていました。イスラエル軍は、ハマスのメンバーをターゲットにしたものだという主張をしています。パレスチナ記者連盟は彼らに、ハマスの誰かと質問しましたが、軍は回答をしていません。たとえハマスの一員がいたとしても、子どもたちや妊娠していた妹など家族全員を殺害する理由には絶対なりません。
この攻撃で生き残ったのはファトマの母親だけです。お母さんは、重傷を負いましたが、昏睡状態から目覚めることはできました。もちろん重症を負ったので、回復するにはしばらくの時間を要しました。回復したことは、奇跡だと思っています。彼女は本当に強い人間です。最近も交流していて、先日も彼女はビデオメッセージを送ってきました。彼女の笑顔はファトマと似ているんです。
そして彼女は非常にレジリエンスがある。私が彼女の様子を尋ねるたびに、彼女は「あなたはどう?」と聞いてくる。彼女はいつも優しく、寛大な心を開いています。
しかし、実際には彼女は家族以外にも、家や家財道具などの全てを失ってしまっているんですね。現在は自分の家ではなく、彼女の兄弟の家に一緒に暮らしています。9月の地上侵攻の際、彼女はガザ北部からガザ南部に逃げなければなりませんでした。彼女は、攻撃を受けた家族所有のアパートを再建するために北部に戻りたいと私に話していました。
そう願っていたんですが、実はイスラエル軍が今回の停戦が始まる数日前に、もう一度彼女たちが暮らしていた建物を、空爆したんです。そして、証拠を消すかのように粉々にされてしまったんです。
関根:
映画の中で、ファトマの友達が殺された描写もありました。親友のモナさんは無事だそうですが、彼女の状況を教えてください。
ファルシ監督:
彼女たちは皆非常に強いんですが、この戦争が2年以上続いた後、皆、とても疲れています。過去にも戦争を経験していますが、この2年間のジェノサイドの後で、皆が疲れ果てているんです。彼女が恵まれているのは、彼女の父親が医師で、上流階級という点です。しかし、彼らの家も爆撃されました。
だから彼らでさえ、地上戦が始まった時は本当に怖がっていて、避難したい、北から逃げたいからと私に金を送ってほしいと頼んできました。というのも9月のガザ北部は、本当に激しい爆撃を受けていたからです。私は、何とか資金を送ることができ、南部へ逃げました。ちなみに、映画に出てくる小さい子たちはモナの姪っ子たちです。その後、停戦が始まり、再び北部に戻りました。しかし、戻ったとはいえ、食べ物も飲み水も不足しています。

関根:
先日、東京フィルメックスで先行上映がありました。Q&Aが終わった後に、監督がつぶやくように「ファトマにもここにいて欲しかった」と話して会場を後にしたんですね。その時の気持ちをお話ください。
ファルシ監督:
もちろん私は、彼女がもうここに存在しないということを受け入れなければなりません。その上で、私ができることは、彼女のこの映画と写真を携えて世界中を共に旅することです。世界中で注目を浴びていますが、彼女はこれを見られません。ですが、彼女は強い信念を持っている人ですので、多分、空の上かどこかで今も生きてるんだと私は思っています。
関根:
少し解説させていただきますと、監督はファトマの写真を世界中で展示するために働きかけを行っています。今年のカンヌ国際映画祭でも写真が展示されましたが、この日本でも、現在、日本全国でファトマ・ハッスーナ写真展を開催するために、クラウドファンディングを実施しています。すでに写真展の展開は始まっています。これは別の動きですが、ちょうど数日前に、来年の5月にKYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭でファトマの写真が展示されることが発表されていました。ちなみに、すでに30件ぐらいの写真展が海外では開催されたそうです。

ファルシ監督:
そしてこの写真集はフランスで出版され、彼女の作品や詩、映画に関するテキスト、優れた写真が収録されています。ぜひ日本にも届くことを願っています。
関根:
はい、この写真集はフランスではすでに発行されていて、4500部が販売されたそうです。
ファルシ監督:
それからこの2年間で、数百人のジャーナリストが殺害されていますが、ファトマが残した記録は残り続けています。そして、人々は肖像画を描き、彼女のために歌を作るなど、波紋が広がっています。どんな栄誉よりも、彼女が世界中で起きている広がりを目撃してくれたらと願いますが、とにかく彼女の言葉や写真は確実に伝播しています。こうやってひとり一人がメッセージを受け取って、世界中に彼女のメッセージが届くことを嬉しく思います。
関根:
最後に聞きたいことは、私たち一人ひとりがガザやパレスチナのためにできることは何なのかということです。
ファルシ監督:
まず、戦争を求めていない、平和を求める世界市民として、一人の個人としてできることは、パレスチナの自由のために声を上げることです。特にガザの中から伝えられるジャーナリストがこうやって殺されていく中、私たちが関心を持ち伝えていくことは、ますます重要です。現在に至っても、外国から自由にジャーナリストがガザ地区に立ち入り報道することはできませんが、正義のために真実が伝えられなければなりません。
ファトマの物語は、他に沢山あるパレスチナ人が直面している悲劇の一つです。どうか彼女を忘れずに、彼女のためにも歩んでください。
最後に、日本には大きな役割があると思います。なぜかというと、過去の戦争による痛みを知っているからです。私は広島で平和記念館に行きましたが、原爆被害の酷さに大変なショックを受けました。このような経験をしている日本は、他国と比べてパレスチナに対して、個人も国も、違うレベルの理解を示してくれると信じています。ありがとうございました。



