2025年5月31日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー 配給:ユナイテッドピープル

監督メッセージ

2011年、マニラを拠点とするフランス通信(AFP)のジャーナリストだった私は、エコツーリズムに関する記事を書くためパラワン島へ向かう準備をしていました。パラワン島はフィリピン最後の偉大な熱帯雨林があり、フィリピンで最も美しい場所のひとつです。しかし、この取材で私が接触した環境保護活動家は、私がパラワン島へ行く直前に射殺されました。私はとにかく彼の殺人事件を調査するためにパラワン島へ向かいました。そこで私は、この一見のどかな島が、島を守るべき権力者たちによって破壊されつつあること、そしてその破壊を食い止めようと命がけで活動している小さなグループがいることを知ったのです。

その一人がマニラ出身のカリスマ弁護士、ボビー・チャンでした。ボビーはオフィスの外に、パラワンの熱帯雨林で違法伐採者から没収したチェーンソーをツリーのように積み重ねて置いていました。ボビーは私に、没収の根拠としている私人逮捕について、またこの仕事のために仲間が殺されたことについて話してくれました。チェーンソーの山は、地元のビジネスマンや政治家たちに対して、彼と彼の仲間たちは決して屈しないという決意のシンボルです。その時、私はパラワンの土地を守る人々についての映画を作らなければならないと決心したのです。

私はまた、パラワンの環境保護活動家たちの闘いが世界的な現象となっていることも知っていました。2020年には世界中で227人が殺害されたと報告され、記録的な人数の環境保護活動家たちが殺されています。2015年のパリ協定以降、週に平均4人が殺されているのです。環境保護活動家たちは、気候変動による最悪の影響から地球を守るために、人類が行っている努力の最前線にいます。ボビー、ニエヴェス、タタ、そして『デリカド』に登場する環境保護活動家たちの強さと勇気は、私たちが気候変動との闘いに希望を見出すためのインスピレーションの源になると考えています。
私は何年もかけて、パラワンの具体的な問題を調査し、記録し、映画の主人公たち、そしてこの重要な物語を彩る多くの人々と信頼関係を築きました。違法伐採者を追跡し、チェーンソーを没収するボビーと裸足の反逆者たちとともに森で眠りについたこともありました。環境保護活動のヒロインから政治家に転身し、暗殺予告を受け続けるニエヴェスの選挙戦にも出かけました。

『デリカド』は土地を守る人々の生き様を描き、この問題が身近な恐ろしい現実であることが伝わるよう意識しました。観客が登場人物に共感しながら、極めて切実な社会問題や環境問題を学び、自分たちにつながる問題だと感じられるようにするために。

カール・マルクーナス(Karl Malakunas) / 監督、プロデューサー、脚本、セカンドカメラ

20年にわたりアジアを拠点に、環境問題、紛争、自然災害、政変などを取材。香港を拠点とするフランス通信社のアジア太平洋副編集長。サンダンス・インスティテュート・ドキュメンタリー・フィルム・プログラムのフェローであり、SFFILMヴァルカン・ プロダクションズ・エンバイロメンタル・フェローシップを受賞。AFP通信のマニラ支局長として8年間フィリピンに滞在した後、その経験や人脈、フィリピンに関する深い知識を生かして、初の長編映画『デリカド』を制作。2015年にパリで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)、フィリピン東部で発生した超大型台風ハイヤンの余波、石炭を動力源とする中国経済の台頭など、世界各地で環境問題を取材してきた。