2025年5月31日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー 配給:ユナイテッドピープル

ロバート・”ボビー”・チャン 弁護士インタビュー

“最後の秘境”、フィリピンのパラワン島の生態系を守るために命懸けで活動するパラワンNGOネットワーク(PNNI)の代表で、映画の主人公として登場するロバート・”ボビー”・チャン弁護士をマニラでインタビューしました。なぜ、命を懸けでまで活動を続けるのか?その想いに迫りました。
(聞き手:関根健次(ユナイテッドピープル代表))

Q. なぜ違法伐採者を追跡し、チェーンソーを没収するような活動を始めたのですか?

弁護士になるには、ロースクール在学中にインターンシップに参加しなければなりませんでした。弁護士事務所、裁判所、NGOの中から選ぶことができたのですが、私はNGOを選びました。アテネオ・ロースクールに設置された、アテネオ・ヒューマンライツ・センターがそのNGOでしたが、この団体が私をパラワン島に派遣したのです。

パラワン島に行けてラッキーだと喜びました。観光地として有名な場所に無料で行けるのですから。しかし、私が連れて行かれた場所は、ビーチやトレッキングルートなど観光客が行く場所ではなく、先住民が暮らす場所でした。そして、そこでは人々が先住民の許可なく木を伐採している問題を知ることになりました。

次に、漁業の現場へと連れて行かれました。ここでの問題は漁におけるダイナマイト使用です。ダイナマイトの使用でもちろんサンゴ礁が破壊されます。これらの行為は止めなければなりません。私達のような団体が問題を告発しなければならないと強く思いました。

問題は、政府の法執行者が森にも海にも存在していないことです。ですからインターン中に、政府に代わって法の執行ができるチームを組織しました。旅行者気分でやってきた私が、危険を伴う環境活動の世界へと足を踏み入れたのです。1995年のことでした。それ以後、パラワン島にずっと居続けたわけです。

ロースクールを卒業後、弁護士になった私はアテネオ・ヒューマンライツ・センターの弁護士となりました。アテネオ・ヒューマンライツ・センターは、39のNGOの連携組織であるパラワンNGOネットワーク(PNNI)の加入団体の一つだったのですが、PNNIの代表にならないかと誘われ、代表に就任しました。このようにNGOが束になることは、森林伐採禁止や採掘禁止、漁業規制の法律を提言するために必要なことです。

©Karl Malakunas

Q. パラワン島で、ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)とされ、命の危険を感じてマニラにいる現在もPNNIの代表を務めているのですか?

引き継ぎたい気持ちはあるのですが、誰も立候補してくれません。パラワン島の元州知事を恐れているからです。皆は、私だけが唯一彼のことを恐れていないと考えていますが、そんなことはありません。私も怖いのです。誰かに命を狙われたら、怖いと感じないはずがありません。克服できただけです。もし、恐怖で心が折れてしまったら、誰が貧しい漁業者を守るために、先住民のために、農家のために闘うのでしょうか?ですから恐怖心があったとしても、それを克服することを決意したのです。私が勇敢であることを、自分を騙すようにして奮い立たせているのです。

Q.そうは言っても、どのようにその恐怖心をなくし、勇気を持ち続けることが出来るのでしょうか?簡単ではないのではないでしょうか?

私達は皆、宗教心が強いカトリック教徒です。恐怖心をなくすことは、練習して出来ることではなく、神様からのギフトと理解しています。これを、私達は恩寵(グレース)と言っています。このギフトが心に届いたとき、私達は勇敢になれるのです。マジックのようですが、1日にしてならずです。そして、いつもこの心境でいられるわけでもありません。なぜなら恐れは再来するからです。その時は恩寵により、再び克服するのです。

私のチームが森に入って行くとき、恐れを感じます。なぜなら、もう仲間を失いたくないからです。だから、あなたたちが昨日森に入っていく前に、教会で安全のためのお祈りしていたんです。

Q. ペルソナ・ノン・グラータは、聞き慣れない言葉ですが、主に国家間の外交上、国外退去処分とされた人のことをいうと理解していますが、あなたはどういう状況なのでしょうか?

フィリピンでは、州単位でペルソナ・ノン・グラータが出されます。州からペルソナ・ノン・グラータが出されると、その州では歓迎されない人物となるわけです。私の場合はパラワン州から出されています。

Q. ペルソナ・ノン・グラータが出された具体的な影響とは何でしょうか?

州から見放された存在ですから、州政府とはビジネスができません。パラワン島に行くことはできるのですが、ペルソナ・ノン・グラータとなった結果、元州知事の支持者たちが私を脅迫しやすくなったのです。実際に脅迫され、命を狙われているという情報が入ってきていますから、パラワン島を脱出したのです。

映画の完成後、任期の上限によりこれ以上知事を継続できない元州知事は、パラワン州を3分割しようとしていました。それによって、再び3つのうちの1つの知事になろうとしたのです。彼は、自分の娘と親戚を別の地区の知事にする目論見でした。アルバレス家による支配を計画したのです。この分割案にNOを突きつけたのがPNNIでした。ですから、彼は私やPNNIを憎んでいるのです。

Q.具体的にはどのような脅迫があるのでしょうか?

オフィスの周りにバイクがうろつくことです。フィリピンでは最も一般的な暗殺方法が、一人がバイクを運転し、後ろに乗ったもう一人が銃でターゲットを撃つ方法です。何度かこういったバイクに遭遇したので、オフィスの警備を強化しました。オフィスの周りにヘルメットをかぶった2人組みのバイカーがいたら、すぐに連絡が来るようになっています。

Q.森林パトロール中に殺されてしまったメンバーは何人なのでしょうか?

映画の撮影後に1人殺されてしまったので合計14人です。

Q. PNNIは違法伐採を止めるために、チェーンソーを没収していますが、新たに法律を作ることがゴールなのでしょうか?どのようなビジョンをお持ちですか?

政府に仕事をしてもらうことです。チェーンソーの没収や、ダイナマイトを使っている違法漁業者を捕まえることは政府の仕事です。政府がやらないから、私達がやっているのです。私達がやっていることを知り、恥ずかしいと感じて欲しいのです。ですからPNNIには、チェーンソーを積み上げたクリスマスツリーを設置していたのです(現在は没収されている)。

NGOに属する普通の人々が、700以上のチェーンソーを没収したことを知ったら、彼らが動いてくれるのではないかと期待しているのです。しかし、行動するのではなく、私達のクリスマスツリーを没収してしまいました。何も見せるものがなくなってしまったので、現在は写真を掲げています。新たな法律は必要ありません。法律はすでにあるのです。政府がやるべき仕事をしてくれたらそれでいいのです。

©Delikado LLC

Q.政府のどのセクションが本来やるべき仕事なのでしょうか?

3つあります。環境天然資源省(DENR)、パラワン持続可能な開発のためのカウンシル(PCSD)、そして3つ目がパラワン州政府です。この3つの組織が本来すべき仕事をすべきなんです!しかしなぜ彼らはその仕事をしないのでしょうか?ドル箱である観光業にフォーカスしているからです。採掘もお金になりますが、採掘できる場所はパラワン南部に限られています。観光業はパラワン島周辺の島々を含めた島全体が対象となるのです。そして、儲かるため、貧しい人々から土地の収奪が行われているのです。

Q.映画が国際的に公開され、フィリピンでもパラワン島では上映されていないものの、例えばマニラでは上映されました。率直にこの映画が完成し、公開されたことをどう感じていますか?

この映画は私達が行っている最も大切な行動である、エンフォースメント(執行)に焦点を当てており、この活動を伝える点で評価しています。しかし、私達には5つの活動があり、エンフォースメントはそのうちの1つでしかありません。他の活動は政策提言を行うアドボカシー、次世代を育成するユースプログラム、マイクロファイナンスを行うソーシャル・エンタープライズプログラム、そして政府資金不正利用監視プログラムです。これらが描かれていません。映画に全部入れることは求めませんが、1つのアプローチだけで、パラワンの問題を解決はできないことを理解していただきたいです。

Q.『デリカド』を観たフィリピンの観客の反応はどうでしたか?

正直に話せば、思ったほど話題になるほどの反響がありませんでした。外国での需要はあると思いますが、フィリピン国内では耳の痛い問題であり観たいとは思わないのでしょう。しかし、観たいと思っても観る機会がないというのも事実です。例えば私がパラワン持続可能な開発のためのカウンシル(PCSD)の代表であれば、すぐさまこの映画の上映会をできるだけ多く開催しますが、そうならないのは、この映画によって彼らの印象が悪くなるので、できるだけ触れたくないのです。

Q.最後の質問ですが、日本など海外から求めていることはなんですか?

環境保護するには3つの方法があり、エンフォースメント、教育、研究です。多くの資金が教育や研究に行き、エンフォースメントには来ません。法の執行が出来る機関がなければ、研究対象となる森が消滅します。何よりもまずは、エンフォースメントがこのような場所には必要なのです。研究している間に森がなくなってしまいます。オフィスを観たでしょう。壁すらないオフィスです。それでも心底森を守るために活動するチームに会いましたよね。現在、何が必要かといえば、森に入ってくためのガソリンを買うお金です。資金援助は大いに必要としています。2つ目は、政府への影響を政府から与えることです。私たちのような活動を応援するように外国政府がフィリピン政府に影響を与えることです。 3つ目が、政府と私達が統合的に行動するために影響を与えることです。政府はどうしたらいいかの経験がないからです。