『SEED』は、種子の支配による環境破壊と全体主義的な支配の進行という人類史的な危機の赤裸々なレポートだ。
種子は人々を支配するのにも、金儲けにも、一番手っとり早い方法だ。まず「ハイブリッド」という保存できない種子を作って、その特許をとる。また戦争で使われた化学薬品を農薬や化学肥料に転用する。このやり方で化学薬品会社や製薬会社は食料となる作物種子の大部分を所有するまでになった。さらにこれらの巨大グローバル企業は今、遺伝子組み換え(GM)によって、人々の健康ばかりか地球生態系そのものまで脅かしている。20世紀に94%の作物種子が失われ、伝統的な農業は急速に破壊され、中小の農家は廃業に追い込まれた。
一方、『SEED』には、世界各地で、頑強に、そして朗らかに抵抗を続ける人々の群れが登場する。旧約聖書のノアに自分をなぞらえて、“箱船”としての自家製貯蔵庫に種子を集めるシードセイヴァーたちは言う、「遺伝子の多様性は飢餓から人類を守る垣根だ」。乾燥した大地で灌漑もいらない伝統的な在来品種を栽培し続ける先住民族の農民は言う、タネは神々からの、そして先祖からの贈り物、「いつかこのトウモロコシが人類の延命のために非常に貴重なものとなるだろう」。「世界中の人々と食物を共有する」夢を抱いて、100カ国以上を旅して無数の種子を集めてきた植物探検家たちは言う、「種子はタイムカプル、過去を保存し、未来に実りをもたらす」と。人体だけでなく地球生態系全体の健康を脅かす遺伝子組み換えと農薬に敢然と立ち向かう農民、母親、先住民、サーファー、弁護士、学者、研究者たちの群れ。「シードフリーダム」運動を率いるヴァンダナ・シヴァは言う。「タネの自由なしに私たちの自由はない」
この日本でも「規制緩和」、「民営化」、「自由貿易」の名の下に、グローバル大企業によるタネの支配が進行中だ。命の源であるタネが危ない。ぼくたちもこの映画に登場するタネの守り人たちの輪に連なろう。
辻 信一(つじ しんいち)
文化人類学者。環境運動家。明治学院大学国際学部教員。「スローライフ」「GNH」「キャンドルナイト」などをキーワードに環境=文化運動を進める一方、環境共生型の「スロー・ビジネス」にも取り組んできた。東日本大震災以後は、「ポスト311を創る」キャンペーンを展開。
http://www.sloth.gr.jp/tsuji/
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