日本での劇場公開を目前に、映画『シード ~生命の糧~』の監督のお二人、タガート・シーゲルさんとジョン・ベッツさんにインタビューしました。
Q.なぜこの映画を制作することになったのですか?
シーゲル:私達は自然や食べ物への深いつながりを表現したいくつかの映画を、情熱を持ち制作してきました。『The Real Dirt on Farmer John』(2005)は、家族経営の農場を有機農場に転換した異端的な農家の物語です。『Queen of the Sun: What Are the Bees Telling Us? 』 (2010)は、世界中からミツバチが消えていくことを調査したドキュメンタリーです。3作目となる『シード ~生命の糧~』制作のきっかけは、ナショナル・ジオグラフィック誌が1903年に存在した野菜のタネが最大96%消滅したとの記事を読んだことです。この記事を読んだ途端に、このことについての映画を制作しようと決意しました。
気候変動や種子産業の統合により益々と緊急性が増しているタネに関わるあまり知られていないことを『シード』は取り上げています。そして、『シード』は私達が制作した3部作の最後の作品として、食べ物と自然界との見えないつながりを明らかにします。タネの守り人、農家、科学者、そして先住民コミュニティーを取材してみると、如何に私達に彼らの声が届いていなかったか打ちのめされました。『シード』は、私たちの食べ物の裏側の成り立ちや、辛抱強く、細心の注意を払って私たちの食べ物の多様性を守っている人々を紹介します。そして、今や世界の食べ物を支配する巨大な化学企業に立ち向かう人々を紹介します。
Q.なぜタネの多様性がそれほど重要なのでしょうか?
シーゲル:タネの消滅のスピードと範囲は驚くべきものであり、人類の将来への影響は明らかです。有名なナチュラリストで作家のゲイリー・ポール・ナブハンは、「今日の私たちのタネの多くは、パンダやホッキョクグマのように絶滅の危機に瀕している」と言っています。気候変動の時代において、タネの多様性の欠如は、人類にとってのリスクです。かつて、一種類しかなかったジャガイモが病原菌により瞬く間に死滅したことで、100万人もの餓死者を出したことで有名なアイルランドのジャガイモ飢饉と同じようなことが起こらないとはいえません。
Q.日本では農家の種子の自家増殖が原則禁止の動きがありますが、米国についてはどういう状況でしょうか?
ベッツ:米国では、GM種子を利用時に、種子を自家増殖して翌年蒔かないよう、必ず契約書にサインすることになっています。たとえば、ブロッコリーの「耐熱性」など、種子育種企業などが特色を特許取得できるという傾向もあります。特色に関するこれらの特許は、新しい品種や開放受粉品種を繁殖させるために働いている多くの独立系の種子ブリーダーを脅かしています。新しい品種を生み出しても、特許を持っている誰かに訴えられる可能性があるからです。本来世界と共有されるべき創意工夫とインスピレーションで作られる新品種が、このような緊張により、本来の種子開発を阻害していると感じています。
Q.日本ではさほど遺伝子組み換え(GM)食品について関心が高いとは言えません。米国ではどうでしょうか?
シーゲル:癌や病気を引き起こすGM食品や農薬の悲惨さを知っている米国人にとっては大きな問題です。PANや有機消費者協会(Organic Consumers Association ,OCA)などの多くの農薬関連組織は、日々これらの問題に取り組んでいます。 しかし、GM食品や農薬の問題が主要メディアで報道されないために、多くの米国人も問題を認識していないことも事実です。米国政府は農薬や種子の大手企業であるモンサント(バイエルに買収された)、デュポン、シンジェンタ、ダウ(コルテヴァ・アグリサイエンス)に寄り添い、問題を直視しません。農薬ラウンドアップが癌の原因となるとモンサント・バイエルに対して起こされた何百万ドルもの訴訟で、認知は広がっているものの、政府は大企業を守り、人々を守っているとは思えません。
※参考記事:モンサントに約2200億円の賠償命令、除草剤の発がん性めぐり3度目の敗訴 米加州
Q.日本の観客へのメッセージをお願いします。
シーゲル:『シード』が日本で公開されることを大変嬉しく思います。私たちも日本に行き、種の素晴らしさを直接伝えたかったのですが、ぜひ在来種の種を、プランターでもいいので蒔くアクションを起こしてください。眼の前で起きる生命の奇跡を見てほしいのです。有機食品を買いましょう。ファーマーズマーケットで地元の農家さんの野菜を買いましょう。世界中に広がりつつある種の無料化を進めるムーヴメントに加わってください。私達も、一粒の種として生まれ、種として生命を全うするのです。米国より愛を込めて。
タガート・シーゲル
ジョン・ベッツ
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