ニコス・ダヤンダス監督インタビュー


10月11日(土)渋谷アップリンクで公開となる『ハッピー・リトル・アイランド ―長寿で豊かなギリシャの島で―』のニコス・ダヤンダス監督に本作についてインタビュ-しました。

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Q. 監督作品『ハッピー・リトル・アイランド ―長寿で豊かなギリシャの島で―』(原題:LITTLE LAND)が10月11日(土)に日本の劇場、渋谷アップリンクで公開されることになりました。どんなお気持ちでしょうか?
とても、とても嬉しいです。実は私の叔母、サヨメは四国出身なんです(22歳でギリシャのクレタ島に移住)。彼女についてのドキュメンタリー映画”Sayome”も作りました。ですから友人も家族も日本にいますし、新宿、大阪、そして東京にも行ったことがあります。日本は大好きなんです。

 

Q. ギリシャ経済危機の後、若者たちが新天地を目指して行くムーブメントを映し出すためにイカリア島を選んだ理由はなんでしょうか。エーゲ海には他にも沢山の候補があったと思うのですが。
誰も知らないことだと思いますが、ギリシャには200ほどの有人島があります。イカリア島を選んだ理由は、イカリア島が世界的に長寿の島として話題になっていることと、島にまつわる興味深い噂を耳にしていたからです。

 

Q.その噂とは?そして、一般的にギリシャの方はイカリア島をどう思っているんでしょうか?
イカリア島民のステレオタイプな印象は、怠け者で、ゆったりと生きていて、信頼出来ない。そしてパーティー好きで、その多くが共産主義者だということ。実際はそんなことないんですが、なぜこんな噂が立つのか理解できる真の理由がイカリア島にはあることを発見したんです。それは、この映画で直接的に、または間接的に明らかになっているはずです。

 

Q.今のギリシャの若い世代はどう生きているんでしょうか?主人公のトドリスのように、首都アテネから田舎を目指す若者たちは多く存在するのでしょうか?
そういう話はギリシャ中で聞きます。移住して成功する人も、失敗する人もいますが、これはいい動きだと思います。このような都市を離れた若者たちが今、素晴らしい食べ物、ワインなどの作り手になっているからです。そして皆、環境に配慮したサステイナブルな方法で生産しています。政府はというといつもどおり邪魔はするけど、これらの若者たちを支援しようとはしていません。私から見れば、彼らのような若者たちはギリシャにとって、最も輝かしい未来そのものです。

 

Q.イカリア島に移住したトドリスは、最初の一年ずいぶん苦労していたようです。あなたのドキュメンタリーは、地方に移住することはそんなに簡単ではないと伝えているようにも見えますが、誰か別の取材対象を見つけてサクセスストーリーにしなかった理由はなんでしょうか?
トドリスに最初に会った時、すぐに彼が好きになり、そして彼のこれからの人生について興味を持ったんです。そして移住するところから1年間追いかけたわけです。私自身、どうなるか分からなかったですし、映画の結果がすべてです。でも私自身は1年後の結果が好きです。どこに行こうとも、人生はそう簡単には上手くいかない。ユートピアは存在しないんです。行く先は終着駅ではなくて、目的地なんですから。

 

Q.ニューヨーク・タイムズ紙の記事によると、イカリア島の失業率は40%以上とありました。あなた自身は失業者と出会いましたか?であれば彼らはどんな生活をしているのでしょうか?そして、彼らは仕事に就いている人と比べて同じように幸せでしたか?
ギリシャはどこでも失業者だらけですよ。でもイカリア島は、失業者にとってほかの場所に比べて環境が悪くないということです。人々はより助け合い、生活はよりシンプルです。何も持っていなくても、この島では多くを所有する人なんて稀だから、比較して落ち込むこともないですし、イカリア島では生きていく上で必要なものがとても簡単に手に入るんです。友達、コミュニティ、いい食事、いいワイン、いい会社、そして静けさが。

 

Q.イカリア島民の生活は、ゆったりとしているんでしょうか?それとも、よく働くことで、健康と生活を維持しているのでしょうか?
矛盾しているようですが、よく働きます。でもゆったり、ゆっくりと。そしてストレスを全然貯めません。

 

Q.あなた自身はイカリア島民の幸せの源泉はなんだと思いますか?
彼らの欲望が、生活に必要なものにほぼ限定されていることだと思います。突飛な夢なんて描かないんです。ただただよりよい人生を生きたいだけ。あとはコミュニティの絆が強いことでしょうか。「ブルーゾーン」長寿研究(長寿研究者やナショナルジオグラフィック誌のチームによる世界的長寿研究)によると、絆が長寿と幸せにおいて、最も重要な要素だとされています。

 

Q.私たちがイカリア島の人々から学べることは何だと思いますか?
サバイバルする能力でしょうね。

 

Q.あなたもこの映画を撮るためにイカリア島に移り住みましたが、イカリア島の印象は行く前と後で変わりましたか?何か新しい発見はありましたか?
イカリア島に行く前に書いた映画の企画内容は、ギリシャの経済危機を意識したものでした。将来への不安でいつも頭が一杯でした。私自身の仕事はどうなるのだろう?私の友人や家族は生き残れるのだろうか?映画が完成してからのことですが、ギリシャ政府が突如、日本のNHKに当たるギリシャの公共放送局ERTを閉鎖したんです。これは私たちのようなドキュメンタリー製作者には大変な痛手でした。というのもERTがギリシャで唯一のドキュメンタリープロデューサーだったからです。私の予想は的中したんです!でもイカリア島とイカリア島の人々との出会いがあったから、このような出来事に動じなくなっていました。なんとかしますよ。

 

Q.イカリア島に行って、あなた自身の人生や考え方が変わったのですね。
イカリア島は私にとって、夢の世界です。映画の現代、”Little Land”というタイトルを付けてくれた詩人、R.L.スティーブンソンが書いているように。
小さな土地(The Little Land)
私は一人、家で座っている。座り飽きたら目を閉じて、大空を航海するんだ。楽しく遊べるところへ行くために。小さな人々が住むお伽話の世界へ。そこはクローバーが木々で、水たまりが海で、葉っぱが船なんだ。さあ、小さな世界へ旅に出よう。

 

■ニコス・ダヤンダス監督プロフィール
前作『サヨメ』(2011年/ARTE、ERT)はモンテカルロ・テレビ祭においてURTI 2012グランプリを受賞、チャイコフスキードキュメンタリー映画祭 2012ではTVフェスティバルとFIPRESCI賞を受賞。他の作品にはFrance 3賞などを受賞した“The Call of the Mountain” (2009 / ERT, ARTE, GFC, TRT) などがある。