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奴隷労働とIUU漁業、日本の関わり

本映画が取り上げている海の奴隷労働は、一般的にIUU漁業によって引き起こされていると言われています。IUU漁業とは、Illegal, Unreported and Unregulated漁業、つまり、「違法・無報告・無規制」に行なわれている漁業のことで、いわゆる密漁だけでなく、不正確および過少報告の漁業、旗国なしの漁船による漁業、地域漁業管理機関(RFMOs)の対象海域での、認可されていない漁船による漁業も含まれます。

世界のIUU漁業による漁獲量は1,100~2,600万トン、金額に換算して100~235億USドル(日本円に換算して約1兆1,459億円~2兆6,928憶円)に上ると推定されています(*1)。これは日本の漁業・養殖業を合わせた生産量(442万トン)よりはるかに多く、ほぼ同等の生産額(1兆5,579億円)に相当する損失です(*2)。

こうしたIUU漁業が与える影響には、次のようなものがあります。
✓水産資源の回復や持続可能な利用に不可欠な、科学的な情報に基づいた資源管理の実効性への脅威
✓禁止されている漁具の使用や漁法での操業、操業実態の隠蔽のための漁具の海中への遺棄による海洋生態系への影響
✓IUU漁業由来の水産物が市場に流通することによる、正規の漁業者の利益損害

そして、本映画『ゴースト・フリート』で扱われている、乗組員や漁業監視員、加工場等での労働者の健康や安全など、人権問題に関するものです。

このようなIUU漁業は、日本の消費と無関係ではありません。日本が水産物を輸入する上位9カ国で評価した調査によると、2015年に輸入した天然水産物215万トンの24~36%、金額にして1,800~2,700億円が、違法または無報告漁業によるものと推定されました(*3)。

資源管理や海洋環境、そして乗組員等の人権にも配慮した漁業には、相応のコストがかかります。そのため、ただ単に安いだけの水産物を調達・消費する側が選ぶようなことがあれば、その需要に応えるために、供給する側には、IUU漁業がはびこる要因を与えてしまいます。その意味で、消費国である日本は、IUU漁業の拡大にも撲滅にも大きな関わりがあります。

映画『ゴースト・フリート』は、現代の奴隷制度の衝撃的な事例にスポットライトをあてるだけでなく、環境破壊が人権侵害にもつながる可能性があることを、サプライチェーン上にいるすべての人たちに警告しています。

執筆者:映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』特別協力 WWFジャパン 海洋水産グループ 滝本麻耶
*1:David J. A. et al. (2009) Estimating the Worldwide Extent of Illegal Fishing. 1ドル=114.59円(2022.1.19)で換算
*2:水産庁(2019)令和元年度 水産白書
*3:G. Pramoda, T. J. Pitcherb & G. Mantha (2017) Estimates of illegal and unreported seafood imports to Japan. Marine Policy 84.

©Vulcan Productions Inc. and Seahorse Productions LLC
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