エルサレムで生まれ育ったフランス系アメリカ人のドキュメンタリー映画監督、プロデューサー。Greenhouse film program賞、SIMA(グローバル・インパクト・メディア・アワード)を受賞。多様な映像作品が、世界中の国際映画祭や映画館で上映された。HBO、ARTE、BBC、CBC、ZDF、IKONなど国際的な放送局と仕事をしてきた彼女の最新プロジェクトは『Criminal file 512』という3部構成のドキュメンタリーシリーズで、2022年にイスラエルのテレビで最も視聴されたドキュメンタリーとなった。『Woman of Valor』は2022年イスラエル・アカデミー賞ノミネート。『100 Million Views』(YesDocu/ZDF)、『Family in Transition』は2019年テルアビブ国際ドキュメンタリー映画祭最優秀作品賞を受賞。その他、『The Wonderful Kingdom of Papa Alaev』はARTE、CNC、IKON、Channel 8、Greenhouse film program、トライベッカ映画祭で受賞。
平和活動家のもとに生まれたフランス系アメリカ人である私は、凝り固まった政治的な物語ではない物語に惹かれており、アブラエーシュ博士のことを、信じがたい悲劇に見舞われながらも平和を語るパレスチナ人の医師として知っていました。2018年に彼がイスラエル国家に対する訴訟を起こした時、人権弁護士である私の姉が助言することがあり、私も彼に直接会う機会を得ました。トロントを訪れ、彼と彼の子どもたちと一緒に数時間を過ごし、親交を深めました。
知れば知るほど、彼の不可能と思える状況に対する対応力は並外れていました。難民キャンプで数え切れないほどの困難を乗り越えて医者になり、パレスチナ人とイスラエル人の患者(乳幼児の両親)からの人種差別と猜疑心に耐えながら乳幼児に医療を施したのです。妻が亡くなり、8人のシングルファーザーとなった彼は、その後3人の娘も失い、残された 5人の子どもたちを海外へ移住させるために、たったひとりで奔走しました。そして、3人の娘たちが殺された後も、パレスチナとイスラエルの和平を推進する社会活動家でもあり続けました。
アブラエーシュ博士は生来の平和の使者であり、憎しみと不信に引き裂かれた社会の癒し手として個人的な悲しみを超越しています。しかし私たち、ほとんどの人々は彼がそのような苦しみを抱えているにも関わらず、なぜそのように気高く、強靭でいられるのか理解できないと思います。ドキュメンタリー作家としての私の役割は、感動的な人物の物語を共有するだけでなく、その原動力や、その人物のあらゆる面にスポットをあてることだと思っています。彼の立場を想像した時、誰もが呼び起こすだろう復讐や憎悪といった人間的な感情を、彼はどうやって回避するのだろうか?自分の娘の命がイスラエルの爆弾によって奪われたわずか数時間後に、和解の必要性を主張する人物のことをどう理解すればいいのか?肉親を失った自分の子どもたちに、同じことをするよう教育できるだろうか?彼は現代の聖人なのだろうか?それとも、私たちとはまるで違う世界観で生きているのだろうか?と。
また、その人物を取り巻くより広い文脈の中に、その人物を位置づけることも映画作家の仕事です。『私は憎まない』は個人的な物語ではなく、パレスチナの人々の権利のための戦い、暴力と復讐の連鎖を助長する中東の戦争教育文化、移民が新しい国で直面する内面的なアイデンティティの葛藤などを含め、登場人物主導の、より大きな物語に収斂する複雑な映画なのです。