MESSAGE 石川淳哉


ロシアW杯のアジア二次予選の日本と同組のE組グループにシリアが入った。HOME & AWAY方式だが彼らはHOMEではなく中立国でしか戦うことができない。ワールドカップの予選に出てくるぐらいの平和維持がキープされていると世界が認めているという事実に驚く。この映画の主人公のもう一つの未来は、2015年シリア代表のゴールキーパーとしてピッチで戦っていたという未来だ。アジアで二番目と評価されていた彼は、武器の代わりにサッカーボールを手に、シリア国家の威信をかけて国を代表して戦っていたに違いない。もしかしたら、EU圏のリーグで正ゴールキーパーとして高給を貰いメッシやロナウドのシュートを阻止していたかもしれない。

ところが、現実は違う。銃を持ち、バズーカを抱え、地下壕を堀り、まさかのシリア正規軍と戦うという現実だ。最初はみんなに後押しされてシュプレヒコールにでる、時間の経過とともに選択肢は、どんどん少なくなっていき、ついには反政府軍のリーダーとなっていく。
印象的なカットがあった。銃弾が飛び交うアジトの廊下、疲れ果てた彼は銃を抱えたまま座り込み泥のような眠りを貪る。銃弾の痕だらけの廊下に日が差し込み粉塵が白く浮き彫りになる。そこにいたのは、燃え尽きて灰になった矢吹ジョーだった。
(石川淳哉 SOCIAL VALUE PRODUCER)

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