2025年7月11日(金)アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー 配給:ユナイテッドピープル

監督メッセージ

タマラ・コテフスカ(TAMARA KOTEVSKA)

サンダンス映画祭でプレミア上映され、審査員大賞と審査員特別賞を受賞した映画『ハニーランド 永遠の谷』でアカデミー賞®にノミネートされた。同作は、アカデミー賞®長編国際映画賞と長編ドキュメンタリー賞の両方にノミネートされた史上初のドキュメンタリー作品となった。『ザ・ウォーク ~少女アマル、8000キロの旅~』はそれに続く長編作品である。

私は映画監督として、現実を最もユニークかつ予想外の方法で観客に届けることに常に関心を持っています。初監督作品である長編ドキュメンタリー『ハニーランド 永遠の谷(2019年)』は、私が選んだ物語ではなく、むしろ選ばされた物語でした。一見ミツバチについての映画ですが、実際には“人間の貪欲さ”というもっと深い問題について、映画制作の最も重要な側面である映像美を通して探求しています。

『ザ・ウォーク ~少女アマル、8000キロの旅~』は、『ハニーランド 永遠の谷』のごく自然な延長線上にあると感じています。この映画は、シリア難民の少女をかたどったアマルと呼ばれる身長3.5メートルの操り人形が旅する斬新で芸術的なプロジェクトに基づいています。アートディレクターのアミール・ニザール・ズアビの指導の下、アマルはヨーロッパ、ウクライナ、アメリカを3ヶ月間旅し、保護者のいない難民の子どもたちの苦境に対する意識を高めました。 ※映画はヨーロッパの旅のみを撮影

私は、このプロジェクトの力を使ってこれまでの映画で見たことのないような方法で難民の体験にアプローチしたいと強く思いました。それは、おとぎ話のようなアプローチです。幼いシリア人の少女がヨーロッパ横断の旅をどのようにイメージする?楽しみは何だろう?どんな困難があるだろう?子どものレンズを通して見ることで、この物語に何か違うものを加えたいと思いました。 そのために、共同プロデューサーのハッサン・アッカド(自身もシリア難民)、トルコのシリア国境で活動する慈善団体、Karam Foundationと緊密に協力し、この旅と紡がれる言葉が難民としてだけでなく、特に若いシリアの少女のものになるよう努めました。

バルカン半島出身の映画監督として、私は長年、この地域を通過する難民たちの静かな闘いを目の当たりにしてきました。自分たちも長年紛争の悲惨さを経験しているにも関わらず、バルカン半島は戦争から逃れてきた中東からの難民たちに定住権を提供してこなかったという事実を、私は誇りに思えません。難民は幽霊のように扱われ、目に見えない存在として、気づかれずに通り過ぎる操り人形のように扱われているのです。

しかし、本作は助けを求める悲痛な叫びではなく、難民の闘い、強さ、平等であるための能力を称えるものなのです。メディアでは、難民は犠牲者であるというストーリーで埋め尽くされていますが、私はこの映画で難民が社会の重荷であるとか、巻き添えであるという認識を変えたいと思っています。アマルや映画の中で出会う人たちのように、難民は多くのことを提供できるひとりの人間であることを示したい。そして、難民の物語は様々な方法で語られてきましたが、本作では人形劇、演劇、ドキュメンタリー、フィクションの要素を組み合わせることで、これまでにない新たな表現ができたと感じています。

第19回難民映画祭2024のオープニング上映イベントにおけるジャン・ダカール撮影監督(左)とタマラ・コテフスカ監督(右)